เข้าสู่ระบบショーの翌朝、私はまだ昨夜の熱の中にいた。 スマートフォンを開くたび、見たことのない数の通知が流れてくる。 海外メディアの速報。 投資系ニュースの短評。 モード誌のレビュー。 画面の中には、何度も同じ言葉が並んでいた。『ルクソリア、神話を再起動』『白川澪の狂気が、市場を動かした』『セラフィナ・ヴァルデ、母の残像を超える』 読んではいけないと思うのに、指が止まらなかった。 胸の奥が熱い。 怖いくらい、嬉しかった。 私の名前が、誰かの添え物ではなく、服と一緒に語られている。 怜司さんの女としてでも、アーク・ブレイズの新星としてでもなく、白川澪の名前で。「ママ……?」 寝ぼけた声に、私はスマートフォンから顔を上げた。 怜生がベッドの上で、半分だけ目を開けている。 それだけで、胸の奥がふっと緩んだ。「起こしちゃった?」「ううん」 怜生は小さく首を振って、私の方へ手を伸ばした。 私はスマートフォンを伏せ、ベッドに腰を下ろす。その小さな体を抱きしめると、昨夜まで張りつめていたものが、少しだけほどけた。 あたたかい。 この温度を守りたい。 怜生と暮らしていけるだけのお金もほしい。愛もほしい。怜司と、ちゃんと向き合う未来も、もう欲しくないとは言えない。 でも。 画面の中に並んでいた自分の名前が、まだ胸の奥で燃えていた。 ランウェイの向こうで、会場の空気が変わった瞬間。私の線が、誰かの視線を奪った瞬間。その喜びが、どうしようもなく体の奥に残っている。 愛されることよりも。守られることよりも。生活が安定することよりも。私はたぶん、作ったものが世界へ届く瞬間を、いちばん欲しがっている。 そんな自分が、少し怖かった。けれど、否定はできなかった。 予定された記者会見までは、まだ時間があるはずだった。 けれど、伏せていたスマートフォンが震えた。 表示されたのは、一ノ瀬さんの名前だった。「……はい」『朝からごめん。今、動けますか』 声が、いつもより低かった。「何かありましたか」『ルクソリア側で、白川さんの今後について話が始まりそうです。本人抜きで進められる前に、来た方がいい』 胸の奥が、すっと冷えた。 勝った。 でも、勝ったからこそ次が来る。「……分かりました。ただ、怜生がいて」『保育所は?』「まだ開いてい
怜司の気配が、すぐそばで止まった。 振り向くより先に、低い声が落ちる。 「貸せ」 短い声だった。 顔を上げると、怜司がまっすぐ私の手元を見ている。 私は何も言えないまま、ケースを差し出した。 怜司がそれを受け取る。 指先が一度だけ、私の指に触れた。 それだけで胸の奥が熱くなる。 ケースが開く。 怜司は中のピアスをひとつつまみ上げると、私の顔を見た。 「三年前、お前に渡したものは、本物じゃなかった」 胸の奥が、きゅっと縮む。 怜司の声は低い。 「だが、俺にとっては本物と同じ重さだった」 私は息を止めた。 「だから、お前が片方を置いていった時に分かった」 怜司の指先が、ピアスを握る。 「お前は、あの重さに耐えられなかったんだと」 何も言えなかった。 あの夜、置いてきた片方の光。 残したつもりだった。 逃げたつもりだった。 でも、怜司はそれを、責めるために言っているわけじゃなかった。 「……あの時の私は」 声が、震えた。 それでも、顔は上げた。 「今は違います」 怜司が、まぶしそうに目を細める。 その表情に、胸の奥が熱くなる。 「ああ」 怜司の視線が、ケースの中の本物へ落ちる。 「だから今は、本物を身につけろ。澪」 名前を呼ばれただけで、喉の奥が震える。 「こっち向け」 私は逆らえず、少しだけ顔を寄せた。 怜司の指が、髪を耳の後ろへ避ける。 その手つきが思っていたよりずっと静かで、余計に苦しい。 耳たぶへ触れる。 金具が通る。 小さな感触ひとつなのに、全身がそこへ意識を持っていかれる。 まるで印をつけられるみたいだった。 でも違う。 所有される感じじゃない。 勝ち取ったものを、ちゃんと身につけさせられている感覚だった。 もう片方も、同じように。 怜司は何も言わず、髪を整える。 その指先が耳の後ろをかすめただけで、危うく膝が抜けそうになる。 やっと怜司が少しだけ離れた。 その目が、私の耳元の光を確かめる。 視線が離れない。 まるで、ようやく戻ってきたものと、もう二度と戻らないものを、同時に見ているみたいだった。 見ているだけなのに、人前で何かを暴かれている気がした。 抱かれているみ
胸の奥が、ひどく静かに鳴っていた。 セラフィナの指先が、ローブの内ポケットから小さなケースを取り出す。 黒いベルベット。 見覚えのある形だった。 息が浅くなる。 怜司にもらった、イミテーションのピアス。 宝石としては本物ではない。 でも私にとっては、本物以上だった。 片方だけ残ったまま、ずっと手放せなかった時間。 セラフィナに偽物だと言われた日から、その痛みだけが小さな棘みたいに残っていた。 そのセラフィナが、何もためらわず、私の前でケースを開いた。 中で、小さな光が揺れる。 本物だ。 あのピアスの光とも違う。 もっと冷たくて、もっと静かで、でも目を逸らせない光だった。 クレールが小さく息を呑む。 佐伯も、何も言わない。 怜司だけが、少し離れた場所で黙ってこちらを見ている。 「……どうして」 やっと出た声は、自分でも驚くほど掠れていた。 セラフィナはケースの中を見たまま、淡々と答える。 「決まってるでしょう。あなたに渡すためよ」 「……私に」 「ええ」 そこで初めて、セラフィナが私をまっすぐ見た。 冷たい。 でも、見下してはいない。 同じ舞台をくぐり抜けた人間を見る目だ。 「偽物に、こんなものは渡さないわ」 その一言で、視界の奥が熱くなる。 黒崎に押しつけられた名前。 セラフィナに刺された傷。 自分で自分に貼りつけていた烙印。 その全部が、一瞬だけ音を立ててひっくり返る。 偽物じゃない。 はっきりとそう言われたわけじゃない。 でも、もう十分だった。 私はケースの中の光から目を離せない。 セラフィナが、ふいに低く言う。 「これは、母が初めて《アウローラ》を纏った夜につけていた石よ」 胸が、強く鳴った。 セレナ・ヴァルデ。 《アウローラ》を伝説にした女。 「恋人からの贈り物だとか、そういう甘い話じゃないわ」 セラフィナの声は、少しだけ冷える。 「あれは女神への捧げものだった。セレナ・ヴァルデを、ただの女優ではなく、神話にするための石」 黒いベルベットの上で、光が静かに揺れる。 「その夜から、母は伝説になった」 重い。 綺麗だからじゃない。 高価だからでもない。 ひとりの女を、世界が勝
拍手が、しばらくやまなかった。 最後のルックが戻り、音が落ちてもなお、会場の熱だけが残っている。客席から押し寄せる拍手は、賞賛というより、まだ冷めない欲と恍惚が手のひらからこぼれる音に近かった。 勝った。 まだ誰も口にしていないのに、空気の方が先にそう言っていた。 その瞬間、まっ先に怜司の顔が浮かんだ。 見ていたなら、分かったはずだ。 私が渡さなかった熱が、どんな形で会場を奪ったか。 褒めてほしいわけじゃない。 ただ、その目で欲しがってほしかった。 社長としてではなく、男として。 そう思った瞬間、膝が少し笑いそうになった。終わるまで立っていた緊張が、今さら遅れて身体へ戻ってくる。 スタッフの足音は慌ただしい。でも、その慌ただしさの奥に、隠しきれない高揚が混ざっていた。 「白川さん」 クレールが駆け寄ってくる。 頬が赤い。 いつもよりずっと興奮した顔で、タブレットを押しつけるように差し出した。 「もう出てる」 画面には速報記事が並んでいた。 写真つきの短評。 海外メディアの即時レビュー。 投資系の速報欄。 どれも、さっきまで私たちがいた舞台のことを、もう値段と物語に変え始めている。 指先が少しだけ冷たくなる。 「見て」 クレールが半分笑いながら、最初の記事を開く。 大きな見出し。 『ルクソリア、神話を再起動』 その下に続く本文を、私は黙って追った。 白川澪の狂気を神話として成立させられる器は、いまなおルクソリアしかない。 そして、その狂気を恐れず市場価値へ変えられるメゾンもまた、ルクソリアだけだった。 今夜証明されたのは新しい才能だけではない。 ルクソリアが依然として「神話を売れる家」だという事実である。 喉の奥が、熱くなる。 記事に書かれたのは私の名前なのに、そこにあるのは私だけじゃない。 ルクソリア。 怜司。 アウローラ。 全部まとめて、今夜の価値になっている。 「来たわね」 佐伯が後ろから言った。 いつもと変わらない低い声なのに、今日はその奥にわずかな熱がある。 「ええ」 クレールがタブレットを握ったまま、少し早口になる。 「投資筋も反応してる。ルクソリアの神話価値が戻ったって」 「短期なら、十分す
音が切り替わった。 それだけで、会場の空気が変わる。前半の余韻に浸りかけていた客席が、もう一度息を止めるのが分かった。《La Distance de l’Amour(愛の距離)》で引き寄せた視線が、まだほどけきっていない。 だからこそ、次に落ちるものは強い。 私はセラフィナの前に立つ。ローブはもう開いている。その下にある《L’amour et la jalousie(愛と嫉妬)》は、さっきまでの前半とはまるで違う顔をしていた。 同じ物語の続き。でも、戻れない。 愛したまま待っていた女が、そこで終われずに奪い返しにいく服。 セラフィナが私を見る。何も言わない。でも、その目だけで十分だった。 行くわよ。 そう言っている。 私は背中のラインへ最後に指を入れた。ずれはない。甘さももうない。残っているのは、欲しがったまま手放さない意志だけだ。 佐伯が少し離れた場所から低く言う。 「ここで優しくしたら終わりよ」 「しません」 即答だった。クレールが息を呑む気配がする。でも、もう誰も止めない。ここまで来たら、綺麗にまとめる方が敗北だ。 セラフィナがゆっくり顎を上げた。母の残像をなぞるための角度じゃない。それを踏み越えるための顔だ。その瞬間、ぞくりとした。 この女もまた、本気で全部を奪いにいっている。ルミナス・ガラ。母の神話。自分の名前。私とは違うものを欲しがっているのに、向いている方向だけは同じだった。だからこそ、ここまで来られた。 スタッフが合図を出す。 出番だ。 私は一歩下がる。 セラフィナが、暗い舞台袖から光の方へ踏み出した。 最初の一歩で、空気が裂けた。さっきの前半みたいな、静かな吸引じゃない。もっと直接的で、もっと危ない。 会場の視線を、奪う。 そうとしか言いようのない歩き方だった。 細いランウェイの中央へ、セラフィナの身体がまっすぐ進んでいく。《L’amour et la jalousie(愛と嫉妬)》は、その歩みに合わせて揺れるというより、噛みつくみたいに空気を切っていた。 腰の線。脇の落ち方。胸元に残したぎりぎりの余白。 すべてが「見て」とは言わない。見ないでいられるなら見ないでみろ、と挑発している。 客席のどこかで、はっきり息を呑む音がした。続いて、押し殺したざ
音が落ちた。 会場の照明がゆっくり沈み、細く長いランウェイだけが白く浮かび上がる。 私は舞台袖の闇に立ったまま、呼吸を整えた。 いよいよだ。 最初に現れるのは、《La Distance de l’Amour(愛の距離)》。 愛だけでは終わらない物語の、その表側。 セラフィナが位置につく。 私は袖口の落ち方を、最後に指先で確かめた。 布は静かだ。 でも、見た目よりずっと張りつめている。 「白川さん」 佐伯の低い声に、私は振り向いた。 「最初の三歩で決まるわ」 「はい」 「愛は、見せびらかすものじゃない。見ている方に、勝手に欲しがらせるの」 胸の奥が、すっと冷えた。 そうだ。 このショーは説明じゃない。 欲しがらせる場だ。 私は乾いた唇を、舌先でゆっくり濡らした。 佐伯が一瞬だけ目を見開く。 それから、呆れたように小さく笑った。 私は、奪う。 見られるのを待つんじゃない。 欲しがらせて、奪いにいく。 音が、さらに一段落ちる。 開幕。 セラフィナが歩き出した。 最初の一歩で、空気が変わる。 客席のざわめきが止む。 音楽も照明もまだ派手じゃない。 なのに、視線だけが一斉にひとつの身体へ吸い寄せられていく。 《La Distance de l’Amour(愛の距離)》は、舞台の上で静かに光を拾っていた。 大げさに揺れない。 媚びるみたいに広がらない。 でも、歩くたびに裾の浅い波が遅れてついてくる。 その遅れそのものが、未練みたいに美しい。 三歩。 四歩。 愛している。 でも届かない。 抱きしめたい。 でも触れられない。 その距離そのものが、ドレスの線になって立ち上がる。 ターン。 照明が裾の端を掠めた。 その瞬間、白い光が布の内側へ入り、影が身体の線に深く落ちる。 触れていない。 誰の腕も、そこにはない。 なのに、その一瞬だけ、ドレスは誰かの胸に強く抱き込まれているように見えた。 逃げようとする身体を、もう一度引き寄せるように。 離れかけた熱を、無理やり重ねるように。 白い布が、清らかな顔をしたまま、ひどくいやらしく光った。 客席の空気が、そこで変わった。 服を見てい







